アール屋根仕舞いの手間

先週の大雪も少し落ち着き、青空が広がってきました。

神戸市北区大沢の道の駅ファームサーカスにも、多くの積雪がありましたがこの日も元気に現場は動いています。

この施設の屋根は「サーカス」の象徴的な釣り天井の形を模したアールがかかった屋根が特徴です。目を引くフォルムで印象的なのですが、現場でアール天井を作っていくのは非常に綿密な作業が必要となります。

天井や窓部材を作っていくにも、通常の直線と違い差し金で測っていくことができません。そのために、天井に添わして測るための別部材をつくり、そこに差し金を当てていきながら採寸を行って寸法決めしていきます。

そしてまたそれを別部材に写し替え部材の大きさや長さを検討します。

シンプルでモダンな空間であるからこそ、そういった手間をかけながら、特徴的なアール屋根を造作していきます。春になればアール屋根の窓から暖かい日差しが差し込むことをイメージしながら工事は進みます。


大屋根と窓の防水仕舞い

最強寒波が関西を真っ白に染めていますが、現場は新年も元気に動いています。大工道具の差し金(さしがね)がモチーフになっている大きな屋根が特徴の住宅。

高知産の梁と吉野産の大黒柱が支える空間には、最長16メートルに及ぶ大屋根の存在感と、生活を大きく包み込んでくれそうなおおらかさを感じます。

大きな屋根に設置される窓の取り合いを慎重に仕上げます。

今回は天窓として屋根成りつくのではなく、垂直につく窓があります。屋根の勾配と窓周りの水平面など水の溜まりやすい部分があり、そこから絶対に水が建物に回らないように慎重に仕上げます。

透湿防水シートとブチルテープという資材を使用し、この段階で絶対に水が内部に入り込まないような仕舞いにすることが重要だと考えています。

水の回り込みを計算し、このシートで必ず水が外に流れると確認しながら作業を進めていきます。

あとはこの上に様々な仕上げをしていきますが、この段階で完璧な防水処理をしておくことが、のちの住宅の仕上げに影響してくると考えています。何気なく見える部分こそ、ずっと普通に使える仕舞いをしていきたいと考えています。


あかい工房を体感出来る新たな「場」を開設しています。

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

 

この度、移ろう季節と、広がる里山を愉しみ、

あかいの建築を体感いただく「場」を設けました。

 

実際に建築に触れて、感じていただけるよう、

モデルハウスをご案内させていただきます。

是非、みなさまお誘いの上お立ち寄りください。

 


あかい工房を引き継ぐ(後編)

あかい工房を引き継ぐ(前編)はこちら

阪神大震災を機に、地元中堅ゼネコンからあかい工房へと戻った当時から、父親は今思えば寛容に見守っていてくれていたように思います。

三田のニュータウンを始め、旧市街地まで大手メーカー系の住宅の建築が目立ち始めたころだったと思います。地元の後継者のいない工務店や大工職人たちに対して、メンテナンス等の受け皿になるから顧客を私たちに紹介して欲しいと交渉して回りたいと父親に相談しました。

父親はそんな相談にも「好きにしたらいい」と了承してくれ、60代、70代の地元の大工さんを説得しました。

しかし、私の持っていた町並みに対する危機感は伝わらず、結局1人の顧客も紹介してくれることはありませんでした。

先は見えていたのですが、旧市街地にも大手メーカーの住宅が立ち並び始めました。

それは、阪神大震災で瓦葺の木造建築が多く倒壊したと言うイメージから木造は弱いと言う誤った認識、そして地元工務店がこれまで建ててきた和風建築に魅力を感じなくなった消費者が多くなったのも大きいと思います。

そこで焦った工務店は目新しさを追いかけ、新建材や既製品を使うようになり、さらに魅力が減ったように思います。

そんなころ、昭和の時代を引っ張ってきた巨匠建築家の元で修行をし、独立をした同世代の建築家たちとの出会いがありました。

彼らは木造を得意としていたこともあり、私も前職のゼネコンにて設計士の物件をすることに慣れていたので、すんなり「デザイン」を取り入れることができました。

それまで平面図だけを見て家を建てられていた職人が、ディテールを気にしながら『図面』をみて建てていくことに、始めは戸惑いもあったと思いますが、これによって様々な納まりのディテールや建築のあり方を考えるようになりました。

会社に戻った時から「これからの事は、これからの者が」と、事業の承継に関してもスムーズであったと思います。

私はよく「数値で住む家は嫌です。」と言います。

そういう我々も、過去には数値にこだわった高気密高断熱の家や建売住宅も建てました

そして、建売住宅は良くも悪くも、建物自身は関係ないのだと感じました。その土地に3LDKなどの間取りで、ローンが組めて住めればいい。建築としてどうということはそれほど重要ではないように、私には思えました。

長い間、試行錯誤しながら自分たちの建築を考えました。

当然弊社でも、基本的な性能は確保した上でのことですが、四季のある日本において、窓をあけて気持ち良く過ごしたいと考えています。

数値にこだわるよりも、里山や季節を感じる雰囲気、なんとなく長居してしまう計れない居心地の方が大切だと思っています。湿気の多い日は、表面をコーティングされた建材の上では、ジメジメしますが、無垢材の上では心地よく水分を吸放湿してくれる。こうして快適に日本の四季を感じられる建築が良いと思っています。

そして、建築は町並みにとっても重要な存在です。旧市街地に四角い箱が立ち並ぶのはやはり変だと思います。その町並みや風土、地域を構成する「普通の建築」を守る。奇抜さを追い求めるのではなく、あえてその「普通である」ことのかっこよさを、少しずつでも伝えていきたいと思っています。

試行錯誤しながらも、少しずつ自分たちの建築を進めてこられたのも、父親が残してくれた土台があったからだと思います。

その意味では私はいいとこ取りだと思っています。父親の代から付き合っている地元の職人とチームを組み、「責任を持って我々の建築をしよう」と考えています。

長く付き合っている息のあったチームであるからこその仕事と、お客様との出会いから契約までの経緯や、お客様の好みや趣向などの情報を共有しているからこそ共感を呼ぶ、地元にもお客様にも馴染む建築を一緒に作り上げていきたいと思っています。

皆さま、今年は大変お世話になりました。これからも心地よい建築ができるよう邁進いたします。

 

来年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

有限会社 あかい工房 代表 赤井一隆


上棟現場での確認

瀬戸内海からの冷たい風と、ときおり暖かい日差しを感じながら垂水の家の上棟を行いました。

現場では、上棟に向けてクレーン車で構造材を吊り上げ、組み上げていきます。

そこにお客様がお見えになり、これから住む家の現状をご説明しながら一緒に見て回ります。

お客様の中には、怖がられる方もいらっしゃいますが、家が完成してからではなかなか見れない角度から見ることもでき、家のスケール感も感じてもらえるので、できるだけ上へ登って確認いただきます。

そして上棟式が始まり、お客様自身で最後の棟木を打つ背景には、とても綺麗な明石海峡大橋が見えました。

無事に上棟式も終わり、そのまま外観の色選びの打合せに入ります。屋根材、サッシ、木部、壁の色を決めます。

前日にお客様に色のサンプルをお渡ししますが、実際の現場で見ないと日の当たり方などでだいぶ色の見え方が変わってくるので、現場で決めて頂いています。

お客様の納得いく家になるようにsessionを重ねます。


神戸都市デザイン賞
受賞いたしました。

年の瀬もそこに見えてきた師走の最中、施工にて携わらせていただいた神戸市北区道場の大前家住宅が、第三回神戸市都市デザイン賞を受賞し、表彰式に出席させていただきました。

デザイン都市神戸を推進する一環として、神戸らしい景観やまちなみを形成している建築物を表彰する神戸都市デザイン賞において「まちのデザイン部門 ストック再生賞」を頂戴することができました。

神戸市の登録重要文化財としても指定されている大前家住宅は、新名神高速道路の建設のため移築され、新たな茅葺き住宅として再生されました。

評価されたポイントは、古材を可能な限り再利用し、自然素材を伝統工法で茅葺き民家を再生したこともありますが、古いものを残すだけでなく、現代の色彩や使い方をとりいれた部分でもありました。

またお茶会やコーラス会を開くなど、地域の人々にも古いだけでない茅葺き住宅を積極的に公開していることも評価されました。

この日は施主の大前様と、設計の「いるか設計集団」様と共に壇上に並び、表彰いただきました。

お二人と神戸副市長様とともに、にこやかに記念撮影をするなかで、住宅を作ることは景観を作ること、まちを作ることにつながるということを改めて実感することができました。

この度は関係者の皆様ありがとうございました。これからも建築に精進いたします。


大空間のスケールに対する精度

広がる穏やかな青空とは反対に、師走に入って世間も一気に慌ただしくなってきました。

先日上棟をした道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク 大沢(おおぞう)に建築中のファームサーカスでは、サッシ枠や下地作り、配線・配管工事などを進めています。

 

地元野菜などの物販や食堂などとして利用する公共物としての大空間の施工をしていても、仕事の基本は住宅の施工と同じ。

空間は大きくとも重要な部分の下地の1mm、2mmの狂いで、全体にその影響が出てくることがあります。

また、今回は木サッシが採用されているため、木部の伸縮や曲がりなどを考慮し、節などを振り分けて木取りをしながら現場で拵えていきます。

吹き抜け天井が特徴でもあることから、配線ルートを確保し順に施工していきます。

 

大きな建物としての設えであっても、住宅を建築するときと同じ精度で、仕事を積み重ねていくことが重要だと感じています。


アール屋根の施工と責任

秋も深まり、施工中の「道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク 大沢(おおぞう) 」周囲の山々はすっかり紅葉し里山の豊かさを感じます。

この日は3棟ある最後の棟の屋根の組み立てです。

この建物の屋根は、飲食・物販施設「ファーム サーカス」にちなんで”サーカスの天幕のカタチ”をイメージされた設計。

天に釣り上げられたような特徴的なアールの構造を実現するために、模型をつくり施工の検討を重ねてきました。見た目の特徴だけでなく、これからつくられる市民の憩いの場所、安らぎの施設としての安全性をしっかりと実現しなければなりません。

この屋根を実現する大きな梁は、赤松の集成材を使用しており1本およそ150kg。

少し持ち上げるのにも、安全を確かめながら大工4人がかりで「いっせーのせ」と声を出して動かします。

今回は梁や柱の接合には接合金物を使用する「ピン工法」採用しています。

梁の横から専用のドリフトピンで接合することで、断面欠損を最小限になり地震にも強くなります。

施設は、約2万人分の食料などを保管し、地域の避難所などの後方支援を行う防災拠点ともなります。地域の施設として、楽しいだけでなく災害時にも、地域の人の拠り所となる施設を責任を持って施工していきます。


建築の始まりを感じながら

間近に冬の気配を感じる気候になってきました。かやぶき事務所の朝は冬の冷え込みを感じながら、日々の移ろいを感じています。

この日は三木市の新たな土地にて、これから始まる建築の初めの準備を始めました。

地縄貼りという、建築の基礎となる杭打ちの基準を決定していく大事な作業。

これまで図面上に表現されていた建築を、自然である大地の上に再表現していく地縄張り。

起伏のある自然の中に直線を引いていくことは容易なようで難しく、いくつも仮の杭を打ちながら、方向性を確かめて一つのポイントを決めていきます。

設計図と睨み合いながら、距離と角度を計算しながら試行錯誤をしつつ、一つずつ確実に進めてきます。

目の前に広がる雄大な山々と田んぼの風景。

施主様によるとこの広がる景色は「まるで海のよう」と表現されていました。

これから始まる建築の目の前に大海原がひろがり、稲穂が揺れるたびにさざ波が聞こえる。そんな想像力を働かせながら、これから建築の始まりを丁寧に紡いでいこうと感じて仕事を進めます。


『気付く力』を伸ばす

朝の冷え込みに冬の訪れを感じます。かやぶき事務所の朝はキリッと引きしまった空気に包まれています。

毎年この時期になると地域に学ぶトライやるウィークとして地元の北神戸中学校の生徒たちが、職場体験にやってきます。トライやるウィークは阪神大震災などを機に、中学生が現場で見て感じることで「生きる力」を習得することを目的として始まったようです。

弊社も5年前から地域の子供達を育てようと受け入れを始めました。

5日間という短い時間で、現場の見学、実際の工事現場の作業手元として、さまざまな体験をし、生徒としてではなく一人の大人として接します。

 今年は「道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク 大沢(おおぞう) 」での現場作業や、淡河本陣の古民家改修の手伝い、ウッドデッキ

の施工体験などを行いました。

普段、何気に見ているデッキも、どんな材料が使われているのか?なぜこの材料なのか?大工さんの動きや自分が今何をしたら良いのか?指示されて行動するのではなく、考えることが重要だと感じています。

初めて大工道具を持ち、素直に「たのしい」と思える素直な年頃。

この年だからこそ自分の立ち回りや、周りの状況に答える『気付く才能』を伸ばせられたらと思っています。

これから先、チームあかいとして集える仲間がでてくれば最高に嬉しいと思います。


ファームサーカスの上棟

11月の初め、少し冷たい風を感じながら神戸市北区にある神戸フルーツ・フラワーパーク内に開業する「道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク 大沢(おおぞう) 」。

澄み渡る秋空のもと、これから始まる地元神戸に賑わいを作る情報発信施設の上棟をいたしました。

この施設では、物販、情報発信、飲食の3つの建物で構成され、一般住宅よりも仕切りのない大スパンの空間設計のため、上棟作業は最も重要な工程です。

 上棟では重機(ラフター)を使い、施設を支える木材を引き上げながら、一気に屋根の組み立てをします。

一戸建て住宅では取り扱わないような大きな集成材を、事もなくラフター操縦と大工との息の合った作業で適所にスムーズに運び組み立てていきます。

それは事前の打合せと、現場での誤差など施工上の確認を一つ一つsessionを重ねているチームだからこその息があると思います。

建築にはチーム力が必要だと常に考えています。いつも顔をあわせ仕事をしているチームだからこそ、スムーズに厳密に「仕事」をしていけるのだと思っています。

地元の人たちの期待に沿えられるよう一層一団となって竣工まで進めていくおもいです。


土葺きからの屋根替え

木枯らし1号が吹き、いよいよ冬に向かって進む秋空のなか、長年のお付き合いのある施主様の屋根替えを行っています。

今回は土葺きという屋根の上に土を引き、その上に瓦を並べていく工法から、引掛け桟瓦葺き工法への変更です。

土葺きは、土の断熱性と屋根自体を重くすることで、台風時の影響を最小限に抑えることができますが、土の劣化による断熱性能が下がることも指摘されています。

また阪神大震災に土葺きの重い屋根と、瓦を固定しないその工法の弱みが露出して、倒壊の危険性が指摘されたため、現在では軽くすることが主流になっています。

 先代からの長いおつきあいをさせていただいているこの物件でも、まずは丁寧に土を落としていきます。と同時に屋根に構造用合板をきっちり敷き詰め、屋根全体での剛性を高めます。この工法だと垂木などを触らず、上面だけの工事で済むのも利点であります。

関東だけでなく、熊本や最近では鳥取でも大きな地震が起きています。私たち建築に関わるものとして、生活を良くする建築であると同時に、大切な命を守れる建築を進めていくことが重要だと考えています。