「竜山石を見て暮らしたい。」
家の基礎工事が終わって地鎮祭をしたときのこと。「竜山の家」の施主のT様は、ご自身で建築現場に木のフレームを用意し、これから建つ家から砕石場跡地の竜山石の岩肌がどう見えるのか確かめておられました。
登山が趣味で、一人で山に入る時間が一番落ち着くというT様。ダイナミックな岩肌が望める立地を生かして山を見ながら暮らしたいという思いが、家づくりの出発地点となりました。
やりたいことや理想と、住み心地の良さを兼ね備えたT邸、「竜山の家」の家づくりを振り返ります。
木の家がいい
家を建てようと考え始められたきっかけは、ふとしたことでした。当時お子さん一人出来て、賃貸に住み続けるか悩みだしたことや、周囲のご友人が家を建てたりなど。いろんなことが重なり、自然と家について話し合うようになったそうです。
最初は住宅展示場を周って家のイメージを膨らませたというT様ご夫婦。どんな家に住みたいか話し合う中、共通して大切にしたかったポイントが、「木の家」でした。住宅展示場をいくつか周って、本当に住みたいと思う木の家が見つからず、本腰を入れて木造家屋を専門にする工務店を探したり、本を読んで情報収集したりするように。
T様と、私たちあかい工房は、薪ストーブ専門店の西宮ストーブさんの紹介で出会いました。
せっかく木の家を建てるなら何か面白いことがしたいと相談される中で、あかい工房の名前が出たそうです。そういう何気ないきっかけから声をかけていただけるのは、私たちとしてもうれしいことだなと思います。
後に協力いただいた施主様インタビューでは
「まず、事務所が茅葺で、全然雰囲気が違う。社長ご本人が出てきてくれたことにも、茅葺屋根と社長の見た目のギャップにも驚きました。話をしてみると、お客さんの一人一人がやりたいということを手伝ってくれる工務店だなと感じました。」
と語ってくださいました。
はじめてお会いしたのは、いくつかの工務店に絞り込んで検討されている最中でした。あかい工房としても、他社さんも含めて比較検討いただくことは歓迎しています。そういう時間を過ごすことで、施主様がどう暮らしたいかという判断基準や、家を見る目が研ぎ澄まされると感じるからです。
最終的にあかい工房に決めていただいたのは、里山の家モデルハウスを見学に来られたときでした。
決め手になった 里山の家
「里山の家が、理想としていた家とドンピシャでした。天井の高さの使い分け、窓の配置、庭の見せ方など全部計算されているのが分かりました。」
里山の家のモデルハウスを見学したその日に、同じ設計士さんに設計を依頼したい、と電話をいただきました。家のディティールに気づいてもらえ、評価していただけるのは、建てた工務店としてもうれしい限りです。
最終的には予算も加味し、基本設計を里山の家と同じ設計士さんにお願いし、全体のコーディネートと施工をあかい工房が実施することになりました。施主様の希望を聞いて、設計士や職人に伝える。あかい工房はプロデューサーのような立ち位置で家づくりに関ります。
家の設計はヒアリングから始まります。もともと住まわれていたお部屋に伺い、ご夫婦の希望を詳しく聞いていきました。
家に盛り込みたい要素としては自然素材、ウッドデッキ、庭、薪ストーブ、リビングダイニングやキッチンを快適にしたい…などが挙げられていました。
家の実用性という切り口で考えたときに出たキーワードが、「片付け」。奥様はヒアリングシートにも各部屋の収納について細かくご希望を書かれていました。T様も部屋や引き出しの中が散らかっていることが嫌いで、自然に片付く家にしたいとおっしゃっていました。実際にご自宅の様子を見ても、綺麗に片付けて住まわれていることが分かりました。
施主様、設計士、あかい工房の3者がチームとなり、里山の家モデルハウスをベースに、ご要望を踏まえたエッセンスを散りばめた設計を進めました。
土佐の山で、家づくりに使う木材に出会う
T様とは、一緒に高知県へ土佐材の視察にも行きました。
木が木材になる流れを体感するために、伐採現場である山と木材を加工する製材所へ。偶然、製材所でT邸に使う予定の木材を見ることができました。製材所では日々大量の木材が加工され、全国各地に出荷されているので、これはかなりラッキーな出来事。T様もご自宅にこれから使われる木を目の前にして、感慨深かったと仰いました。
夜は高知県の林業担当の方やプレカット業者の方と夕食。
「無垢の木は表面が傷ついたり割れたりしていても、強度は年月がたつほど上がるという話を聞いて。林業に携わっている方々の言葉だからこそ納得できたというか、心にスコーンと入りましたね。」
土佐の木材本来の強さに加えて、乾燥の方法にも工夫があります。あかい工房が木材を仕入れている製材所は「減圧乾燥機」という設備を使っているため、表面はひび割れても内部の心材は割れにくい木材ができます。経年変化で表面が割れたり質感が変わっても、内部の強度は変わりません。
木を植えて、木材として使えるようになるまで数十年から100年。高知の木材は400年以上前、豊臣秀吉の時代から「第一の良材」として扱われ、大阪城にも使われていたり、「土佐堀」という大阪の地名にも名を残しています。
ひとりの一生では体験できない時間軸で営まれている林業。現場に入って話を伺うことで、過去から脈々と引き継がれ守られてきた山の木を使って家を建てるということを、実感頂けたのではないでしょうか。
1 外観
上から見ると五角形をしている家。正面からみると四角形ですが、裏側は山に向けて張り出しており、大きな窓のある吹き抜け空間とウッドデッキが設けられています。外壁は自然素材の「そとん壁」を採用。
2 採光
道路や隣家に面する壁には窓がなく、カーテンを閉めなくても目線を気にせず暮らせます。土地の広さや周囲に建物が少ないことも幸いし、解放感のある景色とプライベートを両立できる家となっています。
3 吹き抜け
広い窓から裏山の岩肌が望める明るい吹き抜け。水平ブレスは耐震等級ををクリアするために付けたものですが、観葉植物を飾ったり洗濯物を下げるのに使われているそうです。
4 階段
鉄のフレームに木を巻きつけ、サイザル麻を編み込んだ階段。気持ちのいい手触りです。
5 ロフト
2階の屋根の真下、一番高さに余裕がある場所にある子供部屋のロフト。
6 洗面所
タイルは奥様が選んだもの。コンセントは三角形のタイルの頂点や辺の位置にあわせてはめ込んでいます。
7 キッチン
木目が特徴的なキッチンは、ツキ板という木を薄くスライスした材料を使っています。イメージに合った木目の見え方になるように、現場で並べて確認しながら仕上げました。
ご家族で料理や洗い物をしたいというご希望から広めのスペースを取っています。
8 薪ストーブ
薪ストーブの周囲の床は掃除がしやすいようモルタルに。
9 庭木
常緑樹と落葉樹を織り交ぜて配置し、隣家と接している面には、常緑樹を植えてさりげない目隠しに。
10 格子戸
玄関ポーチとウッドデッキに面した格子戸は、カーテンのように適度に日光を遮る役割をしてくれます。
11 芝
土いじりや庭仕事もお好きなT様一家。T様が指定された「TM9(ティーエムナイン)」という芝は草刈りの手間も少なく、その後あかい工房がよく使う芝のひとつになりました。