後川蛍茶湯─闇に溶ける一碗の光

2025.06.30
あかいの考え
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後川蛍茶湯─闇に溶ける一碗の光

「川床をつくったので、蛍を見ながらお茶会ができないか」

今年度より後川の地域おこし協力隊となった平松崇史さんから、

そんな夢のような相談をいただいたのは、一週間前のことでした。

急な話でしたが、尾藤社中のみなさんにご無理をお願いし、「後川蛍茶湯」というかたちで

実現へと動き出しました。

「畳を敷けたらもっと静けさが生きるかもしれない」


「昇陽窯さんの花留の花瓶を借りられたら…」

小さな願いがひとつずつ叶っていき、思いを同じくする方々の手で、

静かに、場が整えられていきました。

陽が落ちるとともに、川面からひんやりとした夜気が立ち上り、

20時前には闇がすっかりあたりを包んでいました。

新月の夜。空にも地にも光はなく、ただ川のせせらぎと、

茶筅を振るかすかな音だけが、静かに耳を満たします。

闇の中に、ふと、やわらかな光がひとつ。
その光はすぐにもうひとつ、蛍たちがゆらり、ゆらりと、まるで夜空に浮かぶ言の葉のように。

その光景はどこか夢の中のようで、目を開けたまま見る幻とも言えるものでした。

茶碗の中に浮かぶ湯気さえ、蛍と同じ命を宿しているように見え、

音なき音、言葉なき会話が、そこかしこで交わされていたような。

人と自然と、静けさと、お茶と。

すべてがふんわりとひとつに溶け合う、まるで時が止まったかのような夜でした。

ご参加くださった皆さま、準備にご尽力くださった方々へ、心より御礼申し上げます。


この夜の記憶が、皆さまの心のどこかに、ほのかに灯り続けますように。