兵庫区、湊川のまちに佇む宝地院(ほうちいん)は、
浄土宗の寺院として700年以上の歴史をもつお寺です。
この長い歴史の中で宝地院は、幾度も大きな困難に直面してきました。
その一つが、1995年の阪神淡路大震災です。
震度7という未曾有の地震は、神戸の街に大きな爪痕を残し、宝地院も
例外ではありませんでした。
本堂をはじめとする伽藍も甚大な被害を受けましたが、現在では境内に
保育園を併設し、「お寺で日常を育む場」として静かにその役割を広げ続けています。

そんな中で始まった今回の庫裡の建替え工事。
老朽化した庫裡をこの場所の空気になじむように、そんな想いのもとで進めてきました。
まもなく、その工事が完成を迎えようとしています。


今回の計画において特に重視されたのが、「保育園と併設された現場」であることです。
工事期間中も、子どもたちの園生活は毎日続きます。
動線の安全確保、騒音やほこりへの配慮、外部からの
侵入防止対策など、日々の細やかな調整が求められました。
また、現場では解体中には隣地側の石垣が崩れかけ、
急きょ補強工事を実施。冬場の躯体工事は雪の影響で工程を組み直す場面もありました。
建て方についても、建物の奥行きが長いため、通常のレッカーでは
対応が難しく、特殊レッカー「ピタゴラス」を導入することになりました。


外壁に使用した厚さ30mmの準耐火仕様の焼板「火ばり」は
不燃液等の薬剤は使用せず、木材の燃えしろ設計を利用しています。
さらに、法改正の影響もあり、納期の目処すら立たない商品もあり
変更が必要ないこともありました。

それでも、職人たちがバトンをつなぎ、ようやくかたちになってきました。


震災を乗り越え、歴史を受け継ぎながら、今を生きる場所へ。
日常のすぐそばにあるお寺として、そして子どもたちの成長を見守る場として。
宝地院庫裡建替え工事、まもなく完成を迎えます。
