あかい工房を引き継ぐ(前編)

大工の父の姿を見ながら成長し、将来なりたい仕事は大工さん。当然のようですが、工事現場を見ることも多かったと思います。地元三田学園に進む中、初めから建築の仕事にまっすぐというわけでもありませんでした。当時3万人から20万人に人口が増える三田市のニュータウンを目の前に、今から思うとおかしいのですが、美容師になろうかなんてことも考えました。

手に職をとは考えていましたが、やはり親の仕事を見ているのもあって、工業系大学に進みました。

当時はバブル真っ只中、1人の求人に20倍もの倍率がつく中、ハウスメーカーに進むと決めていたのですが、ようやく「自分や周りの将来を決める大切なことだから、安易に考えてはダメだ」と思うようになり、

結果として、神戸に本拠地を置く木造も手がける会社に就職し、鉄筋コンクリートや木造などの住宅を担当してきました。

 就職をして3年ほど経ち、少しずつ建築の全体が見えつつあった時、阪神淡路大震災が起こりました。幸い神戸市北区や三田周辺はそれほど大きな被害が多くはなかったものの、その修繕に忙しく走り回る父をみていたのもありましたし、「これまでの仕事はここでもできる」という思いもあり、その年の4月から父の手伝いをする事を決めました。

当時は三田でのニュータウン開発が進んでおり、このままでは大手メーカーに街のほとんどを持っていかれるなという危惧もありました。

地元の建築を担うものとして、単に大工が建てた家というよりも、「自分が本当に住みたい」と思える住宅を建てなければ生き残れないと感じていました。

これからたくさん移り住んでくるこの地域の人々全てに共感いただける住宅を作るのは難しい。しかし、私たち建築を楽しむ者と一緒に、素材や住宅のあり方を考えてくれる共感者はいるはずだと感じ始めたのもこのころからでした。

 


モデルでの打ち合わせ

里山住宅にも夏らしいセミの鳴き声に混じって、秋の入り口を知らせる赤とんぼが飛んできました。

今日は里山住宅にて、お客様と新築物件の打ち合わせ。

モデルハウスの引き戸や、窓を例に挙げながらファーストプランのイメージを修正していきながら確認をしていきます。

木製玄関引き戸をご希望されていますが、気密性は期待できませんが、内部に建具を配置することにより快適な空間を演出できます。説明だけでなく、モデルの玄関とリビングの間の土間に設定している建具を見ていただきながら、真夏の外気との温度差なども体感して確認できるのもモデルの良い所です。

 またこの日は、前回のプランを元に考えてきていただいたお客様による「理想の家」の図面を見ながら打ち合わせ。

お子様が自ら書いていただいた理想のプランを見ながら、「なんでここにトイレ?」などと話しながら、和やかに進みます。

お話を伺っているとお子様も、施主様夫妻も、おじい様までみんなで理想の家についてのプランを考えていただいたようです。

家づくりは生活づくり。どういう生活をしたいかを、あかい工房も含めsessionしながら、家族の未来を考えるきっかけを作れていることに誇りを感じます。


見えないところ、気づかないところにも

蝉の声とともに朝を迎える夏らしい日々が続きます。暑いさなかも現場は元気に動いています。今回の住宅の断熱は、ウールブレスという羊毛を使用した自然素材断熱です。

ウールの持つ力で、室内を「夏は涼しく」「冬は暖かい」適度な湿度に調節し、汚れた空気を浄化してくれる安心な素材です。シックハウスの原因となる有害物質も含まないため、安心して過ごしていただける素材です。

従来のビニールシート付きの断熱材に比べて、ウールブレスを充填した後にシートを貼るという手間はありますが、壁の中で見えないからこそ、外と内の空気や湿気を適度に調節し、体を守ってくれる素材を丁寧に施工します。

建築には、気にかけないとわからない部分も沢山あります。

軒天に換気用に取り付けたスリットもその一つ。屋根裏の換気を促す装置ですが、軒先から控えたところに、すっとライン状に配置することで、いかにも取り付けた感じにならないように配慮を加えます。

窓際につけられたアルミサッシを取り囲む木枠は、外から見たときに外壁の自然素材とサッシの違和感のないように取り付けています。

わざわざ見る部分でもないところにプライドを持って仕事をする。手間はかかりますが、建築として、生活として自然であることを目指して施工をしています。


竣工前の最終確認

六甲の原生林をぬけて山頂へ。時とともに茂った木々の合間に佇む六甲山の家。

この日は引渡し前の棟梁による最終チェック。

現場での仕舞いや様々なチェックはすでに終わり、細かいキズや扉の開閉性能などを再確認。

今回の階段はロフトに上がるための、はしごのような形状をしています。

足の指が一番かかりやすいところに、滑り止めのために、固い南洋材を彫り込んでいます。毎日上り下りするからこそ、安全が必要です。

階段踏み板の杉材よりも固い南洋材は、踏み板よりもすり減ることが少なく、かかりを維持することができます。また、その茶褐色が視認性を高めて、段の切り替わりを示します。

 

外壁も景色に溶け込む焼き杉を使用しているため、周辺を取り巻く木々の衝突で、弱くなり水が回ったりしないように配慮と確認を続けます。

六甲山系の原生林が残るこの地域では、一つの木を切るのも厳正な申請が必要です。その中で強風などに煽られても外壁に干渉しないように、枝打ちをしていきました。自然とくらすための建築的な視点での確認がより良い家を作ります。

 

建築はくらしていくもの。この家の一部一部がこれからの生活に馴染んで、もっと豊かになるように最終確認をしていきます。


現場のひと手間

いよいよ夏本番、突き刺さるような暑い日差しの中、現場は着々と進んでいます。

建築の現場では、様々な素材が重なり合うために、その取り合いをその場その場で判断していきます。設計図は数値が緻密で、部分だけでなく全体を見越して寸法が示してあります。

幾つかの工程を経て行って、全体像が見えてくるのですが、石やコンクリート、木材など自然の集まりである現場は、その場その場での判断が必要となります。

今回の現場は、一階部分のコンクリート部分に外装を吹き付けるための、モルタル、そこに木材を使用した庇を取り付けていきます。

各々が有機的に動いていく素材であることを考慮して、ミリ単位で調整し、住んだその先のことを考えて施工が進みます。

設計図に込められた意図を読みつつ、その場で調整していきながら、部分から全体を作るのが現場での仕事だと思います。

手間はその先を考えた人の思いであります。チームあかいは、ひと手間現場に加えたいと思っています。


芝の青さを保つ一手間

梅雨らしく、空気に湿気を十分に含みつつ、夏の日も差し込んでくるこの季節。

私たちには鬱陶しい季節ではありますが、自然の緑や芝には、盛んに伸びる大切な季節です。

十分な水分と光合成でこの時期は芝がよく伸びて、里山の庭も青々と茂っています。しかし、その根本はまだまだ貧弱で、今伸びている芝が枯れてくる時期には次の芽が育たず、ところどころみすぼらしくなることが多いのです。

だからこそこの季節に、青々と伸びた芝をあえて刈り、そこに目土を敷いていきます。

目土とは、『目土』と書いて『めつち』と読みます。

英語では『Top Dressing』と言って、表面の仕上げ、調整と言った意味になります。新芽を刈り、目土をすることで表面のデコボコを直し、地温を保ち、生育を促進させ芝生をより厚くして密度を向上させます。

またガンジキで土を掻きながら、土に空気を含ませることによって、芝は生き生きと伸びていきます。

伸び盛りのこの時期に芝に手を入れて、土を被せているので、隣の芝は青いと言いますが、一手間がかかっており数週間後に、明らかに違う景色になるんです。

その手間をかけることを大切に考えています。


建物を借景の間にある庭

広がる田園の稲も緑が深くなり、いよいよ夏もすぐそこまでやってきました。

神戸市北区の「にろうの家」も昨年の秋口の引渡しから、生活もようやく馴染んできた頃。

実際にじっくり住んでいただいて、二棟が並ぶ平屋と広がる田園の間にどのような外構を施すかを、森田建築設計事務所さんと最終打ち合わせ。

必要な工事として、お父さんやお母さんのためにも足元を歩きやすく。

ただコンクリートでは周りの自然と馴染まないため、土の風合いを活かしながら、足元を固めるガンコマサを採用することにより

歩きやすく、土の風合いが田園風景とも馴染む外構となります。

また道路や隣地との境界に生垣を造ることにより、

曖昧であった境界をはっきりさせるだけでなく、奥に広がる田園や自然を、より借景として愉しむことができます。

内と外、手前と向こうという日本独特の世間という感覚がより、向こうに広がる自然を引き立たせてくれることとなりました。

生垣には白橿、山茶花、クチナシなどを植え、その白い花に鳥や蜂などが引き寄せられる姿に手前にある自然の豊かさを感じる庭になりました。

ここから植樹や版築壁を施し、これから始まる暮らしとともに成長する庭となりそうです。


雨とともに里山の緑が
深まりつつあります。

雨とともに里山の緑が深まりつつあります。
弊社モデルルームもおかげさまで多くのみなさまにご覧いただき、あかいの新たな「場」を共感いただいております。重ねて御礼申し上げます。

この日はチームあかいが勢揃いし、みんなで記念写真を撮影しました。
私は業者会のような集まりをあえて行いません。それはいつも「現場」で顔を向かい合わせ、意見を交し合う仲間だからです。
あえて業者会のように親睦を図るやり方をしなくとも、現場で建築に向かい合ってsessionしているからこその信頼関係がチームあかいの真髄だと考えています。

しかし、今回はモデルルーム開幕の新たな出発を機に、一同に集まりました。
いつも見合わせている顔も、新鮮に映ります。そしてなによりこんなにも多くのメンバーに支えられているということを目の当たりにすることで、責任感とともに建築への誇りが再認識できました。

お客様から預かり、建築していく大切な住宅。
これまでも、そしてこれからもコミュニケーションという場を創造できるようなプロのチームでありたいと心に誓いました。